君の視線
推しの視線がこんなにわかるライブに行くと思っていなかった。
視線の先にいる、視界に入ってしまえる距離ってこわい。私は見つめていたいけど推しがきれいなとき私は大体汚いので視界に、視線の先の途中にいたくないって思っていしたし、思っています。あの視線の先の誰かを見ていたとき、私はあなたの視界に入っていましたか?
後ろに並んでた女の子、推し被りの子。
「あんまり前にいても見てくれないし、真ん中くらいに立って目があった方が良くない?」って話をしてた。聞こえてきた時、そんなこと考えもしなかったから『目が…合う…?』と思ってしまった。でも多分好きな人と目があったら嬉しいもん。そういうことなんだろうなって思った。
彼が出てきて、前よりもぐっと会場を見るように、人を見るように歌っていた。あまりにも近くてぎょっとした。あまりにもかっこよくてくらりとした。
機材トラブルで音止まっちゃって、アカペラで歌って、来た人たちを煽って、手拍子させて、主役を立てて、でもやっぱりマイペースで、闇堕ちキャラみたいなビジュアルしてて、あまりにもかっこよくて、相変わらずそこそこなんかじゃなく歌上手くて、途端にいつもみたいに喋りだして、ニヤニヤヘラヘラしてて、家のガス止まって、25時にラーメン食べて、ひげそり後すごいわかって、この間よりちょっとふっくらしてて、笑ったときやっぱり楽しそうだし、なんか変わってるようで何も変わってないなって思った。
口が悪いとか、なんでお前だけスッキリした顔してるのとかなんか色々言われてて、でも私はそれでもかっこいいって思ったし、やっぱり好きだなあと思った。後ろのいでさんのファンの方が褒めてくれていて嬉しかった。彼のこと全然知らない人のほうが多くて、知らない人には吉野くんって覚えられて、でも、吉野くんだからね、間違ってないんだよね。知らない人が吉野くんって覚えてくれて嬉しかった。知らない人が褒めてくれて嬉しかった。才能を少しでも認めてくれる人がいて嬉しかった。彼が褒められて、認められている世界があることが嬉しかった。
好きだと思った人が褒められて、認められる世界ってこんなにうれしくて、楽しいんだと思った。私はそんな世界で生きたい、生きる。願ってしまう。何かの圧力で彼がいない者にされていて、それがやっぱり悲しかった。ひとりでしたことがすべてなかったことみたいにされているのがとてもとてもかなしい。いるのにいないってなんだろう。
もうこの先がいつあるかわからないから、楽しむしかなかった。前みたいにでろでろに甘いチョコレートみたいな声じゃなくても、歌じゃなくても、アルコールのキツイウォッカみたいな声で、壁打ちみたいな歌を歌っても、嫌いにはなれなかった。いつだって駆けつけるから、待ってるから、好きだと思った歌を歌ってよ。ひとりでステージに立つたびに歌しかないって歌う姿を見るとかっこいいな素敵だな好きだなって思う反面、胸が苦しくなる。
いつか中指立てても、スポットライトの当たる場所にいつ立てるかわからなくても、待ってる。好きだよ。